“文協奨章”を受賞して―台湾の児童文化と子どもの権利の推進を願った30年―

Post date: 2022/09/27

2021年は、「台湾文化協会100周年」ということで、各地でそれを記念する行事が色々と行われました。文学特展、美術展覧会、音楽会、講演等々、台湾全島が賑わっているようにみえました。

「台湾文化協会」とは、歴史的にとても重みのある組織であり、日本に統治された時代の台湾の文化人たち(林獻堂、蔣渭水など)をはじめ、当時のエリートたちが文化活動を通して、もっと平等で主体性のある社会を作ろうと考えて、それぞれの力を注いで尽くしてきた組織でした。そのなかの何人かは日本政府に議会を作らせてほしいと言う主張をもって、請願団まで作って日本の本土に行きました。その時代の精神は、現代の台湾の民主化と深く繋がっていると思われるものであり、100年後の今の我々が振り返って学ばなければならないことがたくさん残っていると考えられます。

そして、私は、昨年の11月に、文化部(日本では文化庁)が、この「台湾文化協会100周年」を契機にして作った「文協文化貢献賞」を受賞した一人となりました。舞台に上がって賞を貰うのには、大変抵抗がありましたが、断るわけにもいかず、当日は渋々と行きました。参加した時にわかったのは、元々は、授賞人数を100名にしたかったそうですが、最終的に審査委員が「100」にこだわらずに、今までの台湾の文化に貢献のある人たち90人を選出したということでした。

100年間ということで、年配の方が多く、長年それぞれの分野で台湾のために力を尽くしてきた人々ばかりでした。それゆえ、私は90人の中では、割と若く、受賞式の日に限って、もう一度「若者」となりました。歴史的に意義のある賞ですので、台湾の大先輩の方々と一緒に受賞することに大変恐縮していましたが、今では、次第に光栄だと思えるようになりました。

受賞した夜、帰宅後、すぐ仲間たちに報告して、過去30年間、私が作り活動してきた親子で絵本を読み合う会の「小大読書会」と、児童文化と子どもの権利の推進に力を注ぐ「児童文化研究社」の皆様に賞を捧げました。子どもも大人も今まで一緒にやってきた仲間たちに感謝の気持ちでいっぱいでした。今回の受賞は、親子の絵本の読み合いを長年にわたって推進してきたことや、「小大絵本館」という民間図書館を2000年に台中に設立して活動してきたこと、さらに、「子どもの権利」を推進する活動を行ってきたことなどによるものであり、彼らがいなければ、私は何もできなかったと思うからです。

 留学生時代、本田和子先生に師事して帰国後、児童文化活動を実践しながら、国立清華大學の中国文学部で 28年間児童文学の講師をやり、その他母校の国立中央大學などで児童文学・児童文化の非常勤講師を務め、また、絵本の編集・翻訳や出版を行ってきました。そして、2021年4月には、私の「第二の人生」の一番大切な啓蒙者である本田先生の著書 (『子ども100年のエポック―「児童の世紀」から「子どもの権利条約」まで―』フレーベル館,2000)を苦労して翻訳することもできました。台湾の読者に本田和子先生のシャープで全方位的な児童観と世界観を広げたいと常に望んできました。もしこの本が台湾という土地に根を下ろして、少しずつ我々の子どもを見る目を変えられたら幸いだと思っています。

今は、新たに立ち上げた「小大絵本学校」で絵本についていろいろな授業をやりながら、国家人権博物館や各学校を拠点として人権問題と子どもの権利に関する仕事をしています。台湾中あちこち走り回っていますが、時間がある時は山登りを楽しんでいます。

(林真美(台湾) 1988年家政学研究科児童学専攻修了)